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脳卒中の臨床症状と障害像

さて第2回となりました今回は、リハビリテーションの対象となる病気で多い「脳卒中(脳血管疾患)」について、後遺症として残る障害について実際に起こる症状も踏まえつつ、以下の内容で皆様と一緒に勉強してみたいと思います。

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Ⅰ.後遺症として残る『障害』とは?

1.定 義

人間らしい活動を妨げている身体的・心理的・社会的因子の機能の異常

2.分 類

障害の分類としては、世界保健機構(WHO)が1986年に『国際障害分類(ICIDH)』、2003年に『国際生活機能分類(ICF)』を定義しています。

1)国際障害分類(ICIDH)
国際障害分類の特徴は、障害のみの考え方としては簡素化されたわかりやすい分類で、複雑な上位レベルの現象は単純な下位レベルの法則で説明し尽くすことができるという『基底還元論的考え方』であり、脳卒中であれば「麻痺が回復しなければ何もできない」など消極的な印象を与えかねないものでした。

具体的には、次のような内容です。

①機能障害(生物学的・臓器レベルの変調)
心理的、生理的、解剖的な構造・機能の何らかの喪失・異常。
例)運動・感覚麻痺、筋力低下、病的筋緊張、精神機能障害、言語障害 等

②能力障害(個人・人間レベルの変調)
日常生活での活動能力のいろいろな制御困難や欠如。
例)運動・感覚麻痺、筋力低下、病的筋緊張、精神機能障害、例)基本動作(寝返り・起き上がる・座る・立つ・歩く等)能力障害、日常生活動作(食事・整容・更衣・入浴・排泄等)能力障害、日常生活関連動作(家事・買い物・車の運転・金銭管理等)能力障害 等

③社会的不利(社会レベルの変調)
文化的、社会的、経済的、環境的に正常な役割が果たすことが制限されたり妨げられたりすること。
例)文化(趣味・スポーツ)、社会(就職困難・政治参加)、環境(段差・階段・狭いトイレ・凹凸)、経済(収入減・出費増)、偏見(外観・能力・効率)における不利や制限

2)国際生活機能分類(ICF)(図2)
近年では、その人を広い視野でとらえると、実は失われたもの(マイナスの部分)だけではなく、うまく利用すればより良い状況に好転できるもの(プラスの部分)も数多く残っており、いろいろな要因が複雑に関連しているという国際生活機能分類に代表されるような考え方に変化してきました(図3)。

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Ⅱ.脳卒中とは?

脳卒中は、脳血管疾患の総称で以下のような分類ができるかと思います。

1.頭蓋内出血:頭の骨の中で出血する病気の総称

1)脳出血
脳の実質の中で出血(被核出血・視床出血・小脳出血・脳幹出血など)

2)クモ膜下出血
脳を包む「クモ膜」の下で起こる出血(激しい頭痛・意識障害などが特徴)

3)硬膜下出血
もしくは、硬膜外出血 … 脳を包む「硬膜」の下、もしくは外で起こる出血
(頭部を強打するなどの要因で発症)

2.脳梗塞:脳内の血管がつまり、神経が壊死する疾患の総称

1)脳血栓
動脈硬化などで血管の中が徐々に血のかたまりでつまってしまい血管に栓をするような疾患

2)脳塞栓
脳以外の場所(心臓など)でできた血のかたまり(血栓)や外傷などで血管内に入ってしまった空気や脂肪など(栓子)がつまってしまい血管に栓をするような疾患

このような出血、梗塞が脳の神経にダメージを与え、意識障害、運動や感覚の麻痺、言語障害などが生じ、周りの状況がわからない、歩けない、会話ができないなどの障害から、日常生活や社会への参加が障害されてしまうことがあります。

意識障害、運動や感覚の麻痺、言語障害などの障害の程度や後遺症として残るのは、出血や梗塞の場所や大きさ等で千差万別です。

では、次にこれらの障害についてもう少し詳しく勉強してみましょう。

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Ⅲ.症状と障害

後遺症として残る機能的な障害・症状として、運動麻痺・感覚障害・言語障害・精神機能障害、失調症・痛みなどがあります。

1.運動麻痺

左右の脳のどちらかが障害をうけると、主に反対側の手足、顔や体にいたるまできれいに体半分が麻痺してしまいます。『動かない、または動かしにくい』ことはもちろんですが、『痙性』と呼ばれる筋肉の異常な緊張が出てきてしまいます。

2.感覚障害

運動麻痺と同様に体半分の感覚の障害も起きます。主に『感覚がない、または感覚が鈍い』のはもちろんですが、厄介なのが『しびれや痛み』を伴う異常感覚です。

3.言語障害

主に右の脳に障害をうけると起こりやすい『失語症』と、口やのどの筋肉が麻痺して起こる『構音障害』があります。『失語症』は、『話す・聞く・読む・書く』機能が障害をうけ、その結果、頭には浮かんでいるのにしゃべれない、しゃべりにくいなどの症状が起こります。また、『構音障害』は、口やのどの筋肉の麻痺によりしゃべりにくく、『嚥下障害』という食べ物を飲み込むことが困難な障害も併発する症状の一つです。

4.精神機能障害

精神機能とは、大まかに意識・注意・知的・高次脳機能・感情・意欲などが含まれますが、これらも障害をうける場合があります。

『意識障害』は、目を開けずに反応がない、ボーとしているなどの症状です。また、きょろきょろ落ち着かない、逆にまわりに気をつけられないなどの『注意障害』や記憶しにくい、計算が間違えやすいなどの『知的障害』もあります。

高次脳機能とは、聞きなれませんが先ほどの『失語症』をはじめ、『失行症、失認症』などがあります。大まかにいいますと『失行症』は、上着を着る方法がわからなくなるなどの頭の中での行動の順序や方法の制御がむずかしくなる症状であり、『失認症』とは、自分の病気の症状の認識がむずかしい、いつも右ばかり向いていて左側半分の認識ができない(左側にぶつかりやすい、左側を食べ残すなど)などの症状です。また、怒りっぽい、すぐに泣いてしまうなどの『感情』の障害や何もする気が起きないなどの『意欲』の障害などもおきてきます。

5.失調症

脳幹や小脳など障害では『失調症』が生じる場合があり、手足が自分勝手に震える、手がゆれて物がつかみにくい、体がフラフラするなどが主な症状です。

6.廃用症候群やその他の合併症

麻痺により動かないことにより起こる障害として『廃用症候群』があり、また、合併しやすい症状もあります。主なものとして肺炎、胃十二指腸潰瘍、尿路感染、床ずれ(褥瘡)、けいれん、手や足が腫れる(肩手足症候群、深部静脈血栓症)、関節が硬くなり動かすと痛い(拘縮)、腕や足が細くなる(筋萎縮)、骨がもろくなる(骨粗しょう症)、立ちくらみがひどい(起立性低血圧)などがあります。

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Ⅳ.障害に対するリハビリテーションの考え方

1.機能の代償(現存・潜在機能)

今、残っている現存機能やこれから開発されるであろう潜在機能により、機能の代償をおこなっていきます。

1)麻痺側・非麻痺側
麻痺のある側はもちろん、麻痺のない側の身体機能のトレーニングや活用も行います。
例)筋力(力)・関節可動域(柔軟性)・平衡機能(感覚・バランス・姿勢調節)・巧緻性(細かい運動・動作)の改善・活用トレーニング

2)精神機能面
障害のある側はもちろん、障害のない側の脳機能のトレーニングや活用も行います。
例)意識・注意・知的・情意・意欲・記憶(理解力・判断力・応用能力・学習能力・エンパワーメント)の改善・活用トレーニング

3)周囲の環境(物・人)
周囲の物や人などの資源を利用・活用します。
例)物…日用品・補助具・補装具・電化製品・乗り物 等
人…看護師・ケアマネージャー・介護職・各種専門職・家族・親戚・ボランティア 等

2.動作の適応

障害はあっても・残っても現存・潜在機能の代償と動作の繰り返しにより学習し、獲得することでいろいろな状況に適応していくことができます。

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以上で今回のリハビリテーション講座は終わりです。
次回は、『高齢者の身体的特性』を予定しております。

(参考・引用文献)

  • 上田敏:「ICFの基本的な考え方—生活機能(プラス面)の重視と階層論的理解を中心に—」,PTジャーナル36:271-276,2002
  • 上田敏:「ICF:WHO国際生活機能分類(国際障害分類改訂版)と21世紀の作業療法—プラスの生活機能をどう捉え、どう生かすかー」,作業療法21:516-521,2002
  • 鹿児島大学医学部リハビリテーション医学講座鹿児島大学医学部付属病院霧島リハビリテーションセンター編集:「あなたにも出来る老人のケアとリハビリテーション」,2000.4
  • 前田真治著:「新編 脳卒中の生活ガイド」,1999.10
  • 竹内孝仁編集:「リハビリテーション事典」,1991.6
  • 眞野行生・近藤喜代太郎編著:「リハビリテーション」,2003.3