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精神機能の障害に対する援助法 その2 ~記憶障害のリハビリテーションと対応法~
前回、「注意障害のリハビリテーションと対応法」という内容でお話しいたしました。今回は、その第2回として「記憶障害のリハビリテーションと対応法」をテーマに勉強していきたいと思います。
記憶とは、学習や経験などの情報を記銘、保持し、再生する能力です。この機能が頭部外傷や脳血管障害などにより障害されると、日常場面にて以下のような症状が観察されることとなります。
日常生活で観察される記憶障害の症状 1) 2) 3)
- 得意なことや興味があることは良く覚えることが出来るのに、あまり興味のないことや、あまり知らないこと、よく理解出来なかったことの記憶は薄れてしまいやすい特徴がある。
- 前向性健忘:一般に手続き記憶やエピソード記憶に強い障害がみられる。
- 逆行性健忘:病気から遡って数年~数時間など過去の記憶がうまく思い出せなくなる。
- 展望性記憶障害:将来実行すべき事柄を適切な時点で思い出せなくなる。そのため、約束・スケジュールなど思い出せなくなるため、約束を守ることが出来なかったり、予定通りに行動が出来なくなる。
- メタボ記憶障害:自分の記憶の状態に関する意識性が低下する。そのため、記憶の間違いに対し無頓着になり、大小手続きによって補おうとする態度に欠ける。
一見、以前と全く変わり無さそうなのに、実際には仕事が出来なかったり、新しいことが学習できず、学校の授業についていけないなどの問題が生じ、日常生活や社会生活への復帰を妨げることがある。
一般的に、記憶障害のリハビリテーションとして、以下のようなものがあげられ、訓練法の選択は、記憶障害の内容によって選択し、複数のものを同時に組み合わせて行うことも可能であり、大切となります。
記憶障害のリハビリテーション 2) 3)
- 機能回復を目的とした訓練法
リハーサル法
外的補助の習得と活用:日記、システム手帳など
- 戦略的訓練法
視覚イメージ法:障害されていない視覚的記憶を利用し言語的記憶を補う方法。
視覚的イメージを利用し語呂合わせをする。
PEG法:買い物リストを身体の一部などと結びつけ覚える方法。
PQRST法:反復訓練方法のひとつ。
Preview:予習 Question:質問 Read:精読
State:記述 Test:試験- 代償的方法
外的補助的手段を用いる。予定表、メモリーノート等を用いた方法。
記憶の取り出しを忘れないような訓練が必要。
家庭で行っていただきたい記憶障害への一般的な対応法としては、以下のものがあげられます。
- 環境調整を行う
- メモ用紙を電話の側に置いておき、内容を直ぐに書き留める。
- 大事な約束や情報は、目の届きやすいところに掲示板や付箋紙を利用し、貼付けておく。
- いつも使う物は置き場所を決め、使用後は確実に同じ場所に戻す習慣をつける。
- 大切な物は、置き忘れないよう身に付ける。
- どこに何があるかレベルを貼ってすぐに分かるようにする。
- 記憶の代償法を利用する
- メモ帳(時間毎に書き込む)
- 目覚まし時計・タイマー
- カレンダー・ホワイトボード
- テープレコーダーなどの録音機器
- 電子手帳、携帯電話、ポケットベル
- 薬管理箱
- 付箋紙
- 決まった日課で生活を行う
- 時間毎や日毎または週毎に、決まった日課に従って生活するようにすることも、記憶に対する問題を軽減する方法のひとつ。
- 日課を決めることは、次に何をするか分かるようになるため、記憶に対する負担の軽減になる。
※ただし、日課に変更があると混乱をすることもあるため、
変更の際は、家族や介護者で注意深く丁寧に説明をするようにする。- 心理面への配慮を行う
記憶障害により、生活情報が適切に保持出来なくなり、生活環境の既知識が乏しくなり、不安傾向が強くなったり、うまく記憶出来なくなった自分に対しても困惑するため、心理的な気分の不安定さに配慮した接し方も大切。
以上で今回のリハビリテーション講座を終わります。
次回は、遂行機能障害の方に対するリハビリテーションと対応法をおおくりしたいと思います。
(参考・引用文献)
- 1)鹿児島高次脳機能研究会:市民のための高次納期脳障害. 2005.
- 2)江藤文夫、他:高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2,38ー44,211ー217,医歯薬出版,2004.
- 3)米本恭三、他:実践リハ処方.医歯薬出版,68ー69,1996.
- 4)本田哲三:高次脳機能障害のリハビリテーション 実践的アプローチ.医学書院,62−82,2005.