精神機能の障害の理解
今回は、人の活動や行動を司り、リハビリテーションを行う上でも、もっともべーすとなる精神機能について、皆様と一緒に勉強してみたいと思います。
尚、今回の内容は以下の通りとなっています。
<目次>
はじめに
- 意識
- 注意
- 知的機能
- 高次脳機能障害
- 失語
- 失行
- 失認
はじめに
精神機能を構成する要素として、意識、注意、見当識、感情・気分、意欲、背景情報といったものがあり、もっとも基盤となるものが意識というものです。これが機能していないとピラミッドの上方にある注意も機能できないことになりますし、今、自分がどこにいるか、といった見当識も機能できない、といった状況におちいることになります。
リハビリテーションにおいて、精神機能における評価をどのように行っているかといいますと、意識、注意、知的機能、失語、失行、失認、心理面の観点から行っています。
では、意識、注意、知的機能、失語、失行、失認、において、これから詳しくお話ししたいと思います。
Ⅰ.意識
1.覚 醒:開眼している。
2.意識内容:見当識(人・場所・時間等)が把握・理解できている。
3.運動反応:刺激(内・外)に対する運動反応がある。
これらの3つを図にあらわすと、下図のように表現することができます。
Ⅱ.注意
- 覚 度:生体の状態によって決められるある情報に対する注意の閾値。
- 多方向性:注意を持続しつつ、多方向に注意を向ける機能。
- 選択性:周りの多くの刺激の中から必要な刺激を選択する機能。
- 持続性:必要な一定時間、注意を持続する機能。
- 転導性:持続している注意を必要なときに他の刺激へ移す。
Ⅲ.知的機能
- 記 憶:短期記憶・記銘・長期記憶。
- 理解力:情報・状況等が分かる。
- 判断力:適切・不適切等を決める。
- 学習能力:覚える・適応する。
- 応用力:知識や経験を基に、異なる状況でも適切な答えを導きだす。
私たちが臨床上よく用いる評価として、HDS-R(簡易長谷川式知能評価スケール) Kohs(コース)立方体テストといったものがあります。HDS-Rは質問によるテストで言語性の知能をはかることが出来ます。Kohs立方体テストでは、積み木を用い、見本のように形をつくる、というもので、動作性の知能をはかることが出来ます
次に、最近では、よくTVや書籍などでも取り扱われ、世間一般に広く知れ渡り耳にする機会が多くなった高次脳機能障害に代表される失語・失行・失認について紹介したいと思います。
全般的障害と部分的障害に分けられる。全般的障害には意識障害と痴呆がある。部分的障害には失語、失行、失認、記憶障害、注意障害などに分けられる3)
- 1.失語(しつご):aphasia
-
言語による表現や理解等の言語機能が障害
- <前提条件>
- 発語に関する筋や神経障害・精神機能低下・聴力障害がない
- 失語症の分類
- 細かく分類すればいくつもありますが、今回は臨床上よく認められる3つの失語について紹介します。
- 1)Broca(ブローカ)失語
- 主に非流暢性の自発話・自発書字の障害
- 自発話が少ない
- 話す速度が遅い
- 韻律(リズム・抑揚・音色)の障害
- 一気にしゃべれる長さが短い
- 努力性の話し方
- 電文体(助詞の削除)
- 錯語はそれほど多くない ※多くは全失語から始まり、その後、Broca失語に移行
<臨床症状>
- 2)Wernicke(ウェルニッケ)失語
- 主に流暢性の自発話・話し言葉・書き言葉の理解の障害
- 非努力性の話し方
- 構音良好
- 長さも正常
- 韻律障害はない
- 錯語が多い
- 発話量は正常、または多い
- 速度は正常、または速い
- 助詞の誤った使い方 ※音読・復唱の際も現れる。話し言葉の理解は回復してくる。書き言葉の理解は回復してくるが、話し言葉の理解ほどではない。
<臨床症状>
- 3)全失語
- すべての言語機能が重度に障害されたもの
- Broca失語とWernicke失語の合併したもの ※発症後すぐの時期では、もっとも頻度が高い。
<臨床症状>
話し言葉の理解障害が軽度となり、全失語からBroca失語に変化することが多い。
以下に“コミュニケーション時に注意したいこと”と“失語症者とのコミュニケーションのこつ”を紹介します。
コミュニケーション時に注意すること
- 失語症を正しく理解し、人間としての尊厳を傷つけない対応を行う。
- 発語の強要や回答を急がせたり、間違いをすぐに訂正しない。
- 不必要に大声で話しかけない。
- 精神的なストレスを与えない。
- かな文字(五十音表)は、逆に難しい。
失語症者とのコミュニケーションのコツ
- 1対1で対話する(落ち着いた環境設定)
- 患者さまの注意を自分に向けてから会話する
- 漢字・数字・絵・実物・ジェスチャー等を交える
- わかりやすい単語を用い、短い文でゆっくり落ちついた対応で話しかける
- 2~3度の繰り返し提示・別の単語や言い回しを変える
- 患者さまが言い淀んだときは、待つ
- 話全体から判断し、予測する
- 「はい・いいえ」の質問へ工夫
- 現存機能を有効に活用する
- 2.失行(しっこう):apraxia
-
以下に代表される2つの失行症について紹介します。
- (1)観念運動失行
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社会的習慣性の高い客体非使用性運動行為の意図性実現困難1)。
病前なら出来たはずの習慣的行為を言語命令や模倣命令に応じて遂行することが出来ない。
- (2)観念失行
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日常慣用の物品の使用障害1)。
複数の客体を含む運動系列の障害。1)単一客体の操作困難:くし、歯ブラシを上手く使用できない、など。
2)複数客体の操作困難:お湯を沸かし、急須に茶葉を入れ湯を注ぎ、湯飲みにお茶を入れることが出来ない、など。
- 3.失認(しつにん):agnosia
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失認症も研究者によっては多く分類することができます。ここでは代表される半側空間無視(USN)について紹介します。
- 半側空間無視(USN)
- 大脳半球病巣の反対側の刺激に反応せず、またそちらを向こうとしない症状である。大部分は右半球損傷後に起こる左半側無視である2)。
- 臨床で用いる評価
- 二等分線テスト、線分末梢テスト、時計盤の描写、ダブルデージー、二次元図形の模写、三次元図形の模写などがある。半側空間失認を有している人がこれらの課題を行うと、左半分を無視してしまうため、右半分のみしか描かない傾向にある。また、日常生活においても、右側のものによくぶつかったり、食事においても左側を食べ残したりする傾向にある2)。
以上で今回のリハビリテーション講座は終わりです。
(参考・引用文献)
- 1)山鳥重:神経心理学入門.医学書院,2004.
- 2)作業療法学全書 第8巻 作業治療学5 高次神経障害.協同医書出版社,2002.
- 3)上田敏、大川弥生:リハビリテーション医学大事典.医歯薬出版,2001.