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リスク管理・二次的合併症の予防や治療

さて第4回となりました今回は、リハビリテーションのトレーニング時に気をつけたいことや、日常生活での不要な安静による思わしくない二次的合併症について、皆様と一緒に勉強してみたいと思います。

Ⅰ.リスク管理

運動を行う上で、気をつけたほうが良い疾患として

1.高血圧・心疾患
2.糖尿病等

があります。

また慣れない運動や日常生活時に気をつけたいこととして、

3.転倒

があります。

この3つについてリハビリテーション(運動)時に気をつけているリスク管理について、少しご紹介します。

1.高血圧・心疾患

高血圧の方や心臓に病気を持っていらっしゃる方は、運動によって(特にいきむように力を入れる運動方法)血圧が上がり、血管や心臓に負担をかけ、思わぬ障害を引き起こすことがあります。

高血圧・心疾患

訓練中止基準(厚生省循環器病委託研究所)

(1)血 圧:収縮期血圧30mmHg以上の上昇
20mmHg以上の低下
(2)心拍数:120/min以上
(3)心電図:ST上昇1mm以上
2mm以上 の変化
(4)重症不整脈
(5)自覚症状:胸痛・動悸・息切れ・疲労感・めまい・ふらつき

このような方の運動時には、リハビリテーションの分野では以下のことに気をつけています。

高血圧・心疾患

心疾患患者の訓練に対する基準(土肥・Anderson)

1)訓練を行わない方が良い場合
① 安静時脈拍 100/分以上
拡張期血圧120以上・収縮期血圧200以上
② 動作時しばしば狭心症を起こすもの
③ 心筋梗塞発作後、1ヶ月以内
④ 心房細動以外の著しい不整脈
⑤ 動作時に動悸、息切れ

2)途中で訓練を中止する場合
① 中等度の呼吸困難が出現した場合
② めまい・嘔吐・狭心症が出現した場合
③ 脈拍が140/分以上になった場合
④ 1分間に10回以上の不整脈が出現した場合

3)途中で訓練を休ませて様子を見る場合
① 脈拍数が運動前の30%以上増加
② 脈拍数が120/分以上
③ 1分間に10回以下の不整脈
④ 軽い息切れ・動悸

個人によって症状が異なりますので、病院等でお医者さんに運動時に気をつけることを確認した方が良いでしょう。

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2.糖尿病

糖尿病の方は、運動によって、以下の様な思わぬ障害を引き起こすことがあります。

糖尿病

糖尿病における運動のリスク

(1)低血糖
(2)強い運動による高血糖
(3)インスリン不足状態での高血糖とのケトーシス
(4)心血管系新刊の憎悪
(5)糖尿病性合併症の悪化

このような方の運動時には、リハビリテーションの分野では以下のことに気をつけています。

糖尿病

インスリン依存型糖尿病における運動時の注意点

① 運動の1~3時間前に食事をとる
② 強い運動、長時間の運動では30分毎に補食する
③ 運動後も24時間にわたって低血糖に注意する
④ インスリン注射は運動開始1時間前に行う
⑤ できるだけ運動に関与しない部位に注射する
⑥ 運動前のインスリンを減量する
⑦ 運動前後の血糖をモニターする
⑧ 血糖が250mg/dl以上、尿ケトン体陽性では運動を延期する
⑨ 運動時血糖変動に関する個人特性を把握する

このような方も個人によって症状が異なりますので、病院等でお医者さんに運動時に気をつけることを確認した方が良いでしょう。

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3.転倒

高齢になるとその身体的特徴から転倒しやすくなります(前回参照)。高齢者を75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者に分けると、転倒に関して以下のような特徴があるようです。

前期高齢者と後期高齢者における転倒
前期高齢者 後期高齢者
活動性 高い 低い
外出頻度 高い 低い
転倒の場所 屋外 > 屋内 屋内 > 屋外
転倒の時間 午後 > 早朝・午前 早朝・午前 > 午後
骨折の部位 上肢骨折がみられる 大腿骨頸部骨折が圧倒的に多い
転倒恐怖感 低い 高い

また、その要因には

① 内的(身体的)要因
② 外的(環境)要因
③ 運動課題の特徴
④ 主観的(精神的)要因

があるようです。その中でも対応しやすい要因として、以下の外的(環境)要因があります。

転倒の危険因子:外的要因

:滑りやすい床
じゅうたん:目の粗い・まくれ・ほころび
障害物:通り道・非固定・家財道具の不満・欠陥
照 明:暗い照明・不適当な照明
戸口・玄関:戸口の踏み台・段差の大きい階段・手すりの不備
風 呂:滑りやすい床・手すりの不備
ベッド:不適当な高さ
履 物:不適当な履物・滑りやすい・不安定
歩行器具:誤用・適応判断の誤り・調整不良
庭先の通り道:障害物・雑然とした庭先・工事中の道

脳卒中のように運動障害をお持ちの方は、さらに転倒しやすい素因が多いと思われます。以下にその防止対策について紹介いたしますので、ご参照ください。

脳卒中患者の転倒防止策

  1. 転倒しやすい患者さまに留意すること
  2. 転倒時期と転倒時間
    ■ 入院2週間以内・午前4時~8時までに注意
  3. 転倒場所は、病室と病棟トイレが多い
    ■ ベッドからのずり落ち・トイレ動作・移乗動作
  4. 転倒しやすい患者さまのチェックを事前に行う
    ■ スタッフ周知徹底・ケース毎の転倒防止策作成
  5. 転倒防止のための環境整備
    ① 移乗時の障害物撤去
    ② ベッドストッパ・ベッド柵・W/Cブレーキ確認
  6. 移乗動作・介護指導の徹底
    ① 本人・家族
    ② スタッフ

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Ⅱ.二次的合併症

二次的合併症としては、以下のようなものがあります。

二次的合併症

1)廃用症候群(Disure Syndrome)
全身性・局所性の安静や不使用により起こる障害

2)誤用症候群(Misuse Syndrome)
誤った指導や治療・方法により起こる障害

3)過用症候群(Overuse Syndrome)
運動量・訓練量が多過ぎたり、体の一部を過剰に使うことにより起こる障害

この中でも『廃用症候群』は、陥りやすい合併症の為、以下にもう少し詳しく紹介します。

廃用症候群
筋肉・靱帯・骨 筋力低下
心臓・血管・血液 心筋梗塞・心拍出量低下・浮腫・冷感・貧血・血圧低下
呼吸器 呼吸筋低下・無気肺・沈下性肺炎
内分泌・代謝・免疫 ホルモン分泌低下・代謝率低下・免疫低下
消化器 消化・吸収力低下・便秘
精神・心理 抑うつ・仮性痴呆・夜間せん妄・意欲・集中力低下
自律神経 起立性低血圧・体温調節不全・排尿・性機能低下

この廃用症候群から脱却し、寝たきりを予防するには、以下のような生活全体の活性化から良い循環をつくることが必要です。

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以上で、今回のリハビリテーション講座は終わりです。

次回は、『精神機能の障害の理解と援助法』を予定しております。

(参考・引用文献)

  • 1)鹿児島大学医学部リハビリテーション医学講座鹿児島大学医学部附属病院霧島リハビリテーションセンター編集:「あなたにも出来る老人のケアとリハビリテーション」2000.4
  • 2)眞野行生編:高齢者の転倒とその対策、医師薬出版、1999.12