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転倒予防シリーズ② 転倒に関する要因~その2:運動器(筋力・骨・バランス)~
今回も前回に引き続き転倒予防シリーズ転倒に関する要因について紹介したいと思います。
転倒の要因1)
高齢者の転倒の要因としてバランス能力の低下があります。
バランスというものは静的な姿勢の保持・急にバランスを崩されたときの反応・自ら動いて姿勢を保持すること。大きく分けてこの3つの要素で構成されます。
この3つの要素が様々な原因によって低下します。そのなかの原因をいくつか簡単に紹介します。
① 関節可動域の制限・姿勢(骨アライメント(配列))
② 筋力低下(筋持久力の低下)
③ 感覚(平衡感覚・表在感覚・深部感覚・視覚)
- ① 関節可動域の制限・姿勢(骨アライメント(配列))1)
-
高齢者の方の特徴的な姿勢として図1の様な特徴的な姿勢が見られます。
高齢者では各関節の伸ばす方向への関節可動域が制限されやすく、脊柱の円背、股関節の屈曲・がに股、膝関節の屈曲、といった姿勢になりやすいです。
この様な姿勢をとることで歩行時には歩幅の減少(小股)になり歩行速度が低下します。
また、この様な姿勢では重心が後方にあるため、さらに後方へ重心が移動したときに不安定となります。
- ② 筋力低下(筋持久力の低下)1) 4)
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高齢者の場合、活動量の低下や加齢に伴って筋力が低下していく傾向にあります。
老化による筋力の低下の研究では、握力の年齢的変化は、20歳時の筋力を基準にした相対的な筋力は70歳では男女ともに30%の低下(10年で6%程度の低下)するといわれています。
脚力は60歳で男性が48%、女性が56%の低下(10年で12%以上、上肢に比べ2倍の低下)するそうです。
筋力が低下することにより、急にバランスを崩されたときに踏ん張ることができずに転倒してしまう可能性が高くなります。
筋持久力の低下でも姿勢を保持することが困難になり転倒のリスクとなります。
- ③ 感覚(平衡感覚・表在感覚・深部感覚・視覚)1)
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平衡感覚(平衡機能)とはその名の通り、体を平衡に保つ感覚と能力であり、反射的・自らの動きでバランスをとることをいいます。
表在感覚とは物に触れる感覚をいいます。バランスをとるには足の裏の感覚が重要でどの様に足が床と接触しているかなどの情報を得ます。
深部感覚とは関節がどの程度の大きさや速さで動いたか、どの程度の角度で曲がっているかなど体の位置や動きを感じる感覚です。
この感覚が低下すると目を閉じた時や暗闇などの状態で姿勢を保持することが難しく、体の動揺が大きくなってしまいます。
視覚とはご存知の通り、視力などのことをいいます。
視力の低下だけではなく、コントラスト感の低下、視野の狭搾といった視機能の低下などが問題になります。
まとめ1) 2) 3)
人の基本的な姿勢調節機構は、感覚入力(感覚統合)、出力機能に分かれています。
感覚入力(感覚統合)は、平衡感覚・表在感覚・深部感覚・視覚といった様々な感覚が大脳や小脳で処理されます。
出力機能は上で述べた筋力や関節の動きなどが主たる構成要素となります。
そのため姿勢を保つためには感覚入力(感覚統合)が行われ、瞬時に姿勢を調整するために出力機能が働くことになります。
人は歩くことや動作目的に応じて姿勢が連続的に変化する中で、姿勢保持機能が巧みに働いて転倒を防いでいます。
① 関節可動域の制限・姿勢(骨アライメント(配列))
② 筋力低下(筋持久力の低下)
③ 感覚(平衡感覚・表在感覚・深部感覚・視覚)
先程紹介したこの3つは加齢や活動量の低下に伴い、徐々に低下していきます。これらが低下することで転倒するリスクは高くなります。
予防と対策としては今後ご紹介していく予定です。大切なことは日々の暮らしの中で動かない日を減らすことです。人は体を使わなければ日々、身体機能は落ちていきます。日々少しでもいいので体を動かすことを心がけましょう。
以上で今回のリハビリテーション講座を終了します。
次回は『転倒予防シリーズ③ 転倒に関する要因~その3:認知面~』を紹介する予定です。
(参考・引用文献)
- 1)泉キヨ子:エビデンスに基づく転倒・転落予防:中山書店2005 P2~P16
- 2)奈良勲:理学療法のとらえかたClinical Reasoning:文光堂2002 P302~P310
- 3)奈良勲:理学療法のとらえかたClinical ReasoningPART2:文光堂2003 P156~P161
- 4)奈良勲 吉尾雅春:運動療法学 各論:医学書院2005 P362