トップページ > 先端医療講座 > ADLの介助の仕方3~食事 II(摂食・嚥下)について~
ADLの介助の仕方3~食事 II(摂食・嚥下)について~
今回は摂食・嚥下についての概要と障害、摂食・嚥下障害の方への介助方法について説明します。
1.摂食・嚥下とその障害について
『摂食』とは純粋に食べること全般をさしています。これに対して『嚥下』とは、飲み込む動作だけを指しています。
つまり、『摂食障害』は食べること全般の障害を指すので、脳卒中はもちろん、食欲低下、体力低下(加齢)、意識障害、嚥下運動障害、心理的障害など様々な原因により食事がとれないことを指します。その中でも飲み込む運動が障害されるために起こる『摂食障害』を『嚥下障害』とよんでいます。
2.摂食・嚥下障害で起こる問題点について大きく分けると
の3つがあげられます。
誤嚥については以前の回でも少し触れていますが、通常食道へと送られる食べ物が、気管に入ることをいいます。これによって起こるのが誤嚥性肺炎です。
日本人の死亡率第4位である肺炎。その中でも誤嚥性肺炎が原因で亡くなる70歳以上の方は70%を占めるといわれています。
4.摂食・嚥下障害の方への介助方法について
- (1)食べるときの環境
-
始めはできるだけ清潔で静か、食事に集中できる環境が望ましいのです。しかし、あまり整えすぎるとかえって緊張してしまうことがあります。静かな音楽(BGM)を流すなどして、“リラックス”できる環境をつくることを第1に考えてください。テレビも消すことをお勧めします。また、できる限り食事の時間は家族に合わせることが大切です。
- (2)食事のときの姿勢
前回お伝えした通り、ここではベッド上で食事をされる方の飲み込みやすい姿勢を紹介します。
- (3)食事前・後の口腔ケア
-
口の中は唾液で常に潤っているのは健康だからです。口から食べていないと唾液のでる量も少なくなり、口の中は乾燥していき、菌が繁殖しやすい状態になっていきます。そんな状態でもし食べ物を食べて誤嚥したとしたら、肺の中で菌が繁殖しすぐに肺炎を引き起こしかねません。口の中をきれいすることは、誤嚥した時肺炎にならない為の予防になります。
食後も必ず口腔ケアを行い、口の中に残った食べ物を取り除くことが大切です。
- (4)食事内容
-
固形物で危険なものは、硬いもの、パサパサしているもの、咀嚼しにくいもの、口の中や喉にくっつきやすいもので、【豆類、揚げ物、とうもろこし、生野菜、こんにゃく、のり,わかめ】などがあげられます。
水分は口から喉に落ちるまでの速度が速く、一番誤嚥しやすいといわれています。しかし、トロミをつけることで誤嚥はしにくくなります。
食べやすい食事の条件は、噛んでいてバラバラになりにくく、口の中や喉をスムーズ通るもの、また、口の中でべたつかない食べ物といわれています。例えば。ゼリーやヨーグルトがこれに当たります。
摂食・嚥下障害の方は一人一人食べやすいもの、食べにくいものが異なります。担当の医師やリハビリスタッフの指示のもと、その方に適した食事を取るようにお願いします。
- (5)一回に口に含む量と食べる速さ
-
口に入れる食べ物の量は、少なすぎても多すぎてもよくありません。少ない場合は口の中の刺激が少なく、飲み込みの運動が起こりにくくなります。多すぎる場合は、喉をとおりにくく、また、喉に溜まりやすいため誤嚥しやすくなります。また、食べる速度が速い人も上手く飲み込めていないにも関わらず、次々に口の中へ食べ物を含ませるので、誤嚥の危険性がまします。この2点も注意するポイントとなります。
食事をとる際には、小さく・薄く・平たいスプーンを使用し、摂食・嚥下障害の改善にあわせて徐々にスプーンを大きくしていくようにして下さい。また、十分に噛んで、一口ごとに飲み込んでから次の一口を口へ運ぶようにして下さい。
5.摂食・嚥下障害のリハビリテーションについて
嚥下障害には誤嚥や窒息という生命の危機に直結する危険な問題がつきまといます。例え「食べさせたい」という気持ちがあっても、看護師やリハビリスタッフ、家族が強行するわけにはいきません。摂食・嚥下のリハビリテーションは医師の管理下に厳密な治療を進めなければなりません。
時間は要しますが、適切なアプローチで摂食・嚥下機能は改善する可能性があります。また、どうしても口から食事が取れない方にも代償的な方法があって、決して管理は難しくありません。
もしもご自身や家族の方で摂食・嚥下障害を疑うようなことがありましたら、一度医師へ相談するか、リハビリスタッフへの相談をお勧めします。
以上で、今回のリハビリテーション講座を終わります。
次回は『排泄について』を紹介する予定です。
(参考・引用文献)
- 聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル,医歯薬出版株式会社,2004,p1.25.26.76~83.145~152
- 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害,医歯薬出版株式会社,2022,p1.2.55~57.87~104.125~128