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肝臓病について 1

はじめに

『国民衛生の動向』(1999年)によると、現在わが国の3大死因は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患であり、次いで肺炎、不慮の事故、自殺、老衰、腎不全と続いています。
そして第9位に肝疾患があげられており、死亡率は人口10万に対し、13.3で、死亡数は16,599人です。第10位が糖尿病となっています。
また、第1位の悪性新生物の中での肝臓及び肝内胆管癌の死亡数は、男性22,937人、女性9,422人、計32,359人となっており増加傾向です。
ご存じかも知れませんが、この肝癌の多くは慢性肝炎や肝硬変という病気を背景に起こっています。従って、慢性肝炎や肝硬変の予防と治癒が肝癌を減らすことに繋がると考えられています。
そこで本シリーズでは、肝炎・肝硬変と肝癌の関係を含め主な肝疾患についてとりあげていきたいと思います。
そして本シリーズをきっかけに、肝臓を知り、肝臓をいたわり、肝臓の病気の予防や克服につながるよう願っています。

まずは、肝臓の病気を正しく理解するためには、肝臓という臓器のしくみ(構造)と働き(機能)についてみていきましょう。

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肝臓の構造―肝臓はからだの外からさわることもできます-

肝臓は、五臓六腑のうちで、容積・重量とももっとも大きな赤褐色をした臓器です。健康な成人男子で1,000~1,500グラム、女子で900~1,300グラムもあります。右上腹部から心窩部(みぞおち)にかけて横隔膜の下にあり、普段は肋骨の下にかくれていますが、深呼吸をすると横隔膜の運動に伴って上下に動き、深呼吸のさいに肝臓の下縁に触れることがあります。また肝炎などで腫れて大きくなった場合、触れることができるようになりますのでその時は注意が必要です。

肝には3,000億程度の肝細胞が存在し、肝臓そのもの(肝実質)と血管系が小さな単位(肝小葉)をつくっています。これが肝臓の構造と働きの単位となり、肝臓という大きな臓器になっているわけです。この肝小葉のまわりには、ところどころに門脈、肝動脈、胆管の枝がおさめられている「グリソン鞘」と呼ばれる部分があります。門脈とは、胃、腸、胆のう、膵臓、脾臓から出た静脈が集まった血管系のことです。胃や腸で消化された栄養素は、門脈を通って肝臓に運ばれます。肝細胞に取り込まれた栄養素は、ここでからだに必要な成分やエネルギーの材料として変えられます(代謝)。一方、肝動脈からはこうした肝臓の働きに必要な酸素が肝細胞に供給されます。これらの門脈や肝動脈は、肝臓の中でしだいに細い血管に枝分かれして、肝細胞は豊富な血液(栄養素や酸素)の供給を受けて、複雑多岐な代謝機能を旺盛にいとなむことができるわけです。そして様々な処理を終えた血液は肝静脈に集められます。

このように肝臓へは門脈と肝動脈の2本立ての血管系が入っていき、1本の肝静脈が出ていくのです。肝臓以外の臓器では、すべて1本の輸入血管(動脈)と1本の輸出血管(静脈)がみられますので、この点が肝臓の血管系の特徴といえます。また肝臓に流入する血液量は1分間に1,300~1,500ミリリットルですが、その2/3の量は門脈から、残り1/3の量は肝動脈から供給されます。

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肝臓の働き―肝臓は頭のよい働きものです-

胃や腸管で消化作用を受けた三大栄養素(タンパク質、脂質、糖質)はもちろん、薬剤やアルコールのような本来からだにとって異物である化合物や、腸管内の窒素化合物から腸内の細菌の働きでつくられる有害物質などは、門脈の血液中に吸収されて肝臓に達します。そして細胞の中に取り込まれて、代謝されたり、無毒化(解毒)されたりします。

個々の肝細胞は、これらの物質を分解あるいは再び合成して他の物質に変え、必要なものをたくわえたり、他の臓器へ送り込んだりします。また不必要なものを肝臓の外に排出します。したがって肝臓は生産工場、倉庫、集配センター、再処理工場、汚物処理場などを集めた一大オートコンビナートとしての機能をはたしているわけです。「肝心(肝腎)かなめ」の言葉どおり生体に欠かせない多種多様な重要な働きをもっています。

栄養素の貯蔵と加工

肝臓に送られてきた栄養素を貯蔵したり、自分の体に合った形に加工・再合成し、必要に応じて血液の流れを介して全身に送り出します。私たちが牛肉や豚肉など色々な肉を食べても、ちゃんと自分の筋肉や組織にできるのは、肝臓のこの働きのおかげです。

  • 炭水化物

    胃腸で消化された糖質は、ブドウ糖のような単糖類となって門脈の血液中に吸収され、各臓器でエネルギー源として利用されます。ブドウ糖が過剰に供給されると、肝臓はこれをグリコーゲンという形で貯蔵します。このグリコーゲンは必要に応じてブドウ糖に分解されエネルギー源として利用されます。血糖の維持(血液中のブドウ糖の濃度を一定に保つ)という重要な役割も、このようにして肝臓が主役をはたしています。

  • タンパク質

    食物として摂取されたタンパク質は腸で分解されて、20種類以上のアミノ酸となって吸収されますが、肝細胞はこれらのアミノ酸を人間固有のタンパク質に再合成します。肝臓は大部分のアミノ酸を糖質や他のアミノ酸からもつくることができますが、どうしても合成できない「8種類のアミノ酸」があります。これらは必須アミノ酸と呼ばれ、食事からとらねばなりません。肝臓病の食事療法で、タンパク質を充分にとることが重要視されるのはこうした理由です。

  • 脂肪

    腸管に達した脂肪は、ここで脂肪酸とグリセリンに分解されて、一部は肝臓に貯蔵されます。そして大部分は、血液中に入り全身の脂肪組織へ運ばれます。

  • ビタミン

    肝臓はビタミンの貯蔵所として、必要に応じてこれらを活性型に変えます。

胆汁をつくり、排泄する

肝臓は胆汁をつくって、これを十二指腸に排泄し、脂肪の消化や吸収に重要な役割をはたしています。肝臓からは1日500~1,000ミリリットルの胆汁が分泌されます。そのおもな成分は、胆汁色素、胆汁酸、コレステロールなどで、いずれも肝細胞でつくられます。胆汁色素は「ビリルビン」と呼ばれる黄色い色素です。これは、最終的には大便特有な茶褐色調のもととなるのです。

胆汁酸は肝細胞でコレステロールからつくられ、脂肪の消化・吸収を初め脂溶性ビタミン(A.D)、鉄やCaの吸収に欠かせない重要な役割をはたします。さらに胆汁の通り道(胆道系)は、コレステロールの主要な排泄路でもあり、また薬物の一部も胆汁中へ排泄されます。

解毒の機能がある

薬剤、化学物質、食品添加物のような外因性の異物や、腸管内での腐敗や発酵によってできるアンモニアやアミンのような内因性の有害物質は、肝臓で無毒化され水溶性の物質に変換されて、胆汁中や尿中に排泄されます。なお、アルコールの代謝も肝細胞で行われます。アルコールの摂取がおおすぎて、処理能力を上回ると、中間の代謝産物である毒性の強いアセトアルデヒドなどがたまり、頭痛やはきけなどの原因となります。これが翌日まで続くと、二日酔いとなるわけです。

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さて、肝臓の構造と機能についておおまかにご理解していただけたでしょうか?

肝臓には、生命維持に欠くことのできない様々な働きがあることを述べてきましたが、さらに忘れてならない特徴があります。
それは、肝臓が代償する力と再生する力をもっているということです。
肝細胞は精巧なしくみと多岐にわたる複雑な働きをいとなんでいますが、この肝臓がかなり広範囲にわたって故障しても、わずかに残った健康な肝細胞によって、今までどおり働きます。そのため、肝疾患にかかってもあまり表立った症状が現れることはありません。
また肝臓はきわめて旺盛な再生能力をもった臓器で、たとえば肝臓の70~80パーセントを切り取っても、残った肝細胞は再生して、3~4週間で元の大きさに戻ります。
さらに肝臓の内部には、痛みを感じる知覚神経がきていないため、肝疾患がひどくなっても痛みを感じることもなく見過ごしてしまうということもあります。それが、肝臓が「沈黙の臓器」「寡黙の臓器」といわれる由縁といえます。
しかし、この能力があることにより、かえって症状があらわれにくく、障害そのものに気づかないということになります。
また症状が出たときにはかなり病状が進んでいることも少なくありません。そこで次に主な肝疾患と症状、検査についてみていきましょう。

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主な肝疾患と症状

肝臓の主な疾患には肝炎、肝硬変、肝癌があります。また脂肪肝は、過食やアルコール多飲がその主な原因と考えられています。
肝機能が低下すると食欲不振、倦怠感、腹部膨満感、赤褐色尿、黄疸、発熱、皮膚のかゆみなどがあらわれます。
肝機能が低下すると、身体全体の機能が十分にはたらかなくなり風邪のような症状で発症してくることも多くなります。
肝炎は肝細胞の栄養状態の低下や、アルコール、薬物の多用や、過労による発症が指摘されています。
黄疸は、胆管閉塞や胆汁の流れが悪くなり血中にビリルビンが増加するために起こり、ビリルビンの黄色が身体の表からはっきり観察できるようになる症状です。
具体的には血液中のビリルビン値が2㎎/dl以上の場合を指しますが、黄色人種である日本人では、3~4mg/dlに達しても黄疸に気づかないことがありますので注意が必要です。
最もわかりやすいのは、白目の部分が黄色く染まることです。ビリルビンは、ふつう肝細胞で処理され、胆汁を介して腸内に入りほとんど便中に排泄されます。したがって、黄疸が強くなると便が白っぽくなってきます。
皮膚のかゆみは、胆汁酸が皮膚に沈着して生じると考えらています。
症状が進行すると肝臓への血流が阻害され輸入血管の一本である門脈の圧が亢進します。そのため食道の静脈がこぶのようにふくらみ(食道静脈瘤)、これらが食事の刺激によって吐・下血をきたしたり、腹水・意識障害・腹部痛・色素沈着などがあらわれます。
また、血液を固まらせる働きをする血小板や血液凝固因子が減少することによって出血傾向もあらわれてきます。

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血液検査と画像検査

肝臓の病気が疑われる場合には、複数の検査を組み合わせて診断を下します。
ここでは血液検査と画像検査をみていきましょう。他に尿検査、腹腔鏡検査などがあります。

1.血液検査で肝障害の程度を調べるには?
(腕の静脈から血液を採取して検査します。午前中検査するときは、朝食を抜いて行います)
  • GOT,GPT(AST,ALT)

    どちらも肝細胞に含まれる酵素で、肝細胞が壊されると血液の中に流れ出してきます。そのため肝細胞がどれくらい障害されているか、肝障害の程度を知ることができます。ただし、GOTは肝臓の他に心臓などにも多く存在するため、肝臓病以外でも値の上昇がみられます。これに対してGPTは、主に肝臓に存在するため、その上昇は肝細胞の障害と深く関係していると考えてよいといえます。普通はGOTの値がGPTの値より大きいのですが、病気の種類によってGOTとGPTの割合がかわるので、一般に両方測定します。GOT,GPTは最近AST,ALTと呼ばれるようになりつつあります。

  • γ―GTP

    肝細胞に障害があったり、肝臓内・外の胆汁の流れが悪い(うっ滞)時、血液中の値あがります。また、飲酒によるアルコール分によく反応し、アルコール性肝障害になると上昇します。1日2合以上の常習飲酒者では、非飲酒者に比べ高値となることがほとんどです。禁酒すると速やかに低下しますので、経過観察に有用といえます。

  • LDH

    LDHは,糖質を代謝する際に重要な酵素となります。あらゆる臓器に存在しますが同じはたらきでも由来する臓器により構造がちがう(アイソザイム)を調べることにより肝細胞の障害が推定できます。LDHの上昇は、急性肝炎、慢性肝炎の増悪期に上昇します。

  • 総たんぱく

    血液中のたんぱくで、大きく分けてアルブミンとグロブリンがあります。アルブミンは、肝細胞だけでつくられますので、肝臓の働きが低下すると値も減ります。著しく低下するとむくみや腹水がでます。グロブリンは肝障害、特に肝硬変があると増加します。異常のあるときは、アルブミンとグロブリンの割合で判断されます。

  • 総コレステロール

    コレステロールは大部分が肝臓で合成されます。よって肝臓の働きが低下すると値が下がります。また、胆管が詰まるとコレステロールは、胆汁を通じて排泄できないため、値が上がります。

  • 血小板

    血が固まる時に必要とされる血球成分です。肝硬変になると血液の中の血小板が減ってきます。このため凝固させる能力の低下と相まって、出血傾向の原因となります。肝硬変の進行度をよく表し、これが10万㎜以下に低下すると肝がんの発生率が上昇するとされています。

  • 総ビリルビン(T―Bil)

    肝細胞が障害されたときに上がってきます。血液中の総ビリルビンがふえると黄疸といわれる、皮膚や白目が黄色くなる症状がでます。他に赤血球が過剰に壊れたり、胆汁が流れにくくなった時にふえます。

2.腫瘍マーカー(血液からがんをみつける)にはどのようなものがありますか?
  • AFP(アルファ・フェト・プロテイン)

    AFPは胎生期にできる生理的タンパクです。出生後は低下し、成人では、ごく微量しか血液中に存在しません。肝細胞癌が発生すると、値が高くなることがあります。ただし肝細胞がんの全例で上昇するわけではなく、肝がんを合併しない慢性肝炎や肝硬変でも上昇する例があります。

  • PIVKA-II

    肝細胞がんに特異性の高い腫瘍マーカーです。他の病気で上昇することの少ない腫瘍マーカーですが、ビタミンK欠乏のときにも上昇します。ビタミンK欠乏をおこす抗凝固剤(ワーファリン)や抗てんかん剤、抗結核剤などを服用しているときは、肝細胞がんでなくても上昇することがあります。

3.B型肝炎ウイルスの存在を突き止めるには?
(日本に多いA型、B型、C型肝炎についてとりあげます。他にD型、E型、G型があります)
  • A型肝炎ウィルス・マーカー

    A型肝炎は急性肝炎で、慢性化することはありません。急性肝炎になったとき、IgM型HA抗体を測ります。

  • B型肝炎ウィルス・マーカー

    血液の中にB型肝炎ウイルスが存在するかどうかはHBs抗原(B型肝炎ウイルス抗原)を調べます。HBs抗原(+)の場合は血中にウイルスがいると考えられます。

  • C型肝炎ウイルス・マーカー

    C型肝炎ウイルスが存在するかどうかはHCV抗体(C型肝炎ウイルス抗体)を調べます。HCV抗体(+)の場合はC型肝炎ウイルスに感染したことがあるということで、この中の60~70%の人は血中にウイルスが今も存在します。

4.超音波検査(腹部エコー)はどんな検査ですか?

超音波診断装置を使って肝臓の中を見る検査です。
肝臓の他に胆のう、腎臓、膵臓、脾臓などを見ることができます。肝細胞がんをみつけるには大変有用な検査です。
肝硬変になったら3ヶ月毎に検査することが推奨されています。

5.腹部CTとはどんな検査ですか?

エックス線を使って肝臓の中を見る検査です。
超音波で検査しにくいところもみることができます。病変をくわしく見るために造影剤を注射することがあります。

6.腹部MRIとはどんな検査ですか?

磁場を使って撮影する検査です。エックス線の被ばくがなく、いろいろな方向から撮影できます。
肝臓にできる良性の病変である肝血管種は超音波では、がんと区別がつきにくいことがあるのですが、腹部MRIで診断がつくことがあります。

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これまでの話の中で心当たりの症状または気になる検査はなかったでしょうか?
肝臓の病気はなか表に現れません。最近の医学の進歩により、様々な検査からかなり肝臓の状態が詳しくわかるようになってきました。この機会に、肝臓病の予防や早期発見に役立てて頂きたいと思います。
主な肝臓病と症状、および検査についてお話したところで、無症状でも肝疾患が疑われる方は、早めの検査をお勧めします。

肝疾患をみていくには、まずは肝臓の解剖、機能を理解した上で症状、検査と話をすすめてきました。次回は肝疾患(肝がん、肝炎、肝硬変)とその特徴、治療についてふれていきたいと思います。

引用・参考文献
  • 厚生統計協会:国民衛生の動向、1999年
  • 薄井坦子:ナースが視る病気、講談社、1998年
  • 池田健次、飯田裕子:JNNスペシャル肝疾患ナーシング、医学書院、1997年
  • 藤沢洌:肝炎の正しい知識、南江堂、1991年
  • 一般社団法人日本肝臓学会:肝がん撲滅のために、1999年
  • 堺 章:目でみるからだのメカニズム、医学書院、1998年

詳しいことは下記の病院にお問い合わせ下さい。

藤元メディカルシステム 藤元総合病院 医療相談室
〒885-0055 宮崎県都城市早鈴町17-1
電話:0986-25-1313 FAX :0986-25-3950