トップページ  > ドクターエンドーのガッテン講座 > 講座その(7)赤いトマトの健康パワー(2)

赤いトマトの健康パワー(2)

前章で、トマトという食材の見なおしから、食材の本来の自然らしさが大量生産を目的とする農業によってだいぶ変わってきてしまったようすをお話ししました。
大量生産の農産物は表面的な需要に間にあう食べ物というだけの価値からしか評価されず、農作物の本来の意義が見失われてしまった感があります。
医食同源ということばが死んでしまって久しいのですが、こうした思いちがいにいたってしまったことに原因がありましょう。
また、現代医療が薬にたよろうとする常識をわたしたちにうえつけてしまったことにも根ざしているのでしょう。

現代医療でいう特効薬とは抗生物質の切れ味ですが、慢性の病気や生活習慣にからむ病気に対するくすりは必ずしも切れ味鋭くありません。
かえって副作用に悩まされてしまいます。こうした病気に対して、食材に根ざした薬効について改めて考えなおしてみる必要がありましょう。
ありのままの食材を医食同源という見方から見なおして改良し、伝統の中に埋没している情報の断片に温故知新を求める必要があろうかとおもいます。数千年の生活の知恵はおそらく馬鹿にならないからです。

「高血圧症」や「動脈硬化症」の際にも述べましたように、病気になるかならないかが食べ物からはかりしれずに影響を受けているわけです。
その一番のよい例は、日本人における塩分制限による高血圧性脳卒中死の減少です。また食べ物の脂肪成分やカロリーの増加傾向と肥満症や糖尿病でなやむ人々の増加とが深くかかわっていることは歴然としています。
これらは食べ物の意義をまさに反映していると読み取れるのです。
ですから、今回はトマトをスタートとして、ありふれた食べ物を例にあげながらそれらの意義をほりさげてみようとおもいます。
こうしたことは、たとえばトウモロコシや大豆でも同じことがいえます。また地鶏の肉や卵のなか身についてもいえることであります。
野菜や果物についてこまかい成分までくわしく調べていくと、地域ごとに大変異なっているものです。

また、見た目に同じように見えるトマトでも50年前のトマトと昨近のスーパーで見かけるものとでは、なか身はかなりことなっているとおもわれます。
トマトの生育という原点にもどって、自然を取りもどす食材として見なおす必要があろうかと考えます。

トマトのおいしさである「コク」は適度な酸味と甘みです。酸味は食欲をまし、胃液の酸味に加勢します。
トマトの酸味のビタミンCはアスコルビン酸という酸であり、胃液内で粘膜の防波堤である粘液にまざり胃がん予防に役立ちます。
またビタミンCが吸収されるとコレステロールとともに副腎皮質ホルモンの材料となります。血液中のこのホルモンとビタミンCはストレスのときにどんどん消費されていきます。
したがって、ストレスのあるときにはビタミンCの補給は大変重要になってきます。
トマトやミカンをはじめとしてビタミンCの補給は毎日こまめにされるとストレス解消に効果が期待できましょう。

ところで、トマトに含まれるリコペンは有名になりましたが、リコペンよりもトマトそのもののパウダーのほうがさらに強力な抗がん作用や抗酸化作用があるという報告があり、トマトにはリコペン以外にも未知の有用な物質がかくされている可能性があります。

リコペンが抗がん作用として有効ながんはおもに前立腺がんです。
この研究は試験管レベルの研究ですから、すぐに男性の前立腺がんに有効かと断定するわけにはいきません。科学的な検証(臨床治験研究)をおこなう必要があります。
一般的な科学評価とは、「ランダムな割付による二重盲検コントロール検討」といういかめしいような名前の手段をとることになるでしょう。
一般的な常識からするといかに不自然な手続きでも、科学性という手続きの一点が重要な根拠となるのが実情です。

一方、一例一例つみかさねて調査していく「症例と対照の比較検討研究」(ケース コントロール スタデイ)という手段もあり、これは臨床的には無視できない重要な情報となります。
とくに食べ物による「がんの予防」や「がんの再発防止」という危険予知は、あきらかな科学的根拠がなくても試みてよいことと考えられます。
これは臨床的な現場での「危険予知の原則」という考え方でもあります。

前立腺がんといいますと、近年の日本人男性で急増しているがんのひとつです。
筆者が医師となって病理学を勉強していこうと考えたのは、今から約35年前の頃です。当時、大学病院で不幸にして他の病気でお亡くなりになったお年より男性の前立腺を顕微鏡でしらべてみますと、小さな“潜んだ前立腺がん”が時に見つかったものです。
つまり、前立腺がんは「潜伏がん」という“悪くないがん”という名前がついていました。お年寄りに時に見つかるがんという印象でした。
それが最近では、進行しやすい“たちの悪い前立腺がん”が40歳代、50歳代でも起こっています。
これはまさに食べ物によって前立腺がんの頻度が増していることを示しています。
前立腺がんは男性ホルモンによって大きくなります。前立腺がんの発生は肉食や乳製品などの洋食系の食材が強くかかわっています。
トランス脂肪酸という脂肪を食べる傾向の人々にも目立つようになっているという研究報告も見られるようになってきています。

前立腺がんと食べ物との関係では、日本人と日系二世人ならびに米国人の前立腺がんの頻度を調べた重要な古い研究があります。
読者の皆さまの予測どおり、日本人の前立腺がんの頻度が一番低く、米国人が最も高く、日系二世人ではその中間であったというものです。
このような研究は疫学的研究といいまして、こうした臨床の研究には多大な時間と労力を必要とします。
しかし、結果として見出されたわずかのちがいは、大変説得力があります。
こうした地道な研究が、前立腺がんとトマトの関係についても最終的にはおこなわれる必要がありましょう。

前立腺がんの予防に関連して、植物エストロゲンという女性ホルモン類似のイソフラボンを豊富に含む大豆について、次回お話しましょう。